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劇団劇作家ブログ
現在、劇団劇作家に参加している劇作家がお送りする日常のあれこれ
非日常の中の日常
2015年08月25日 (火) 13:12 | 編集
『鴉よ、おれたちは弾丸をこめる』という清水邦夫氏の戯曲がある。かつて在籍したある演劇研究所では、長年卒業公演で取り上げられていたものであり、私自身「虎婆」「すがめ婆」として出演した懐かしい作品でもある。
突然、お婆さん(作中では敬意をもって「婆あ」と呼ばれる)の集団が裁判所になだれ込み、占拠してしまう。彼女たちは法廷を乗っ取り、裁判を乗っ取り、さらにそこで日常生活を繰り広げる。酒を飲む、飯を喰う、洗濯物を干す、「われは海の子」と大声で歌う、等々。弁護士や裁判官たちは婆あの暴力的な日常性に抵抗しつつ飲み込まれ、次第に屈服させられていく…。むちゃくちゃな設定だが演じていても面白く、よくできたファンタジーだと思っていた。
さて今年の夏、ある日の昼時、某法案に反対する国会前の集会に参加した。「この中で活動してください。」「ここから出ないでください。」と座り込みの区域を指定し、繰り返し案内する警官の方が沢山いた。と、そこへやってきたのはご婦人の集団。「あそこがいいわよ。」と警備を無視して区域外の日陰にさっさと陣取り、レジャーシートや簡易の椅子を手際よくセットする。あまりに堂々としているので、注意もされない。場所が決まると、女たちは手製の弁当を広げてお互いのおかずを交換しはじめた。「あらいいの?」「果物もあるわよ。」と賑やかな食事が始まり、まるでピクニックみたい。
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「のどかだなあ。」と驚いて見ていたが、これだけではなかった。またある夕方には三線を奏でる男性が現れた。女性の集団を見つけると「ではご一緒に。」と沖縄民謡を奏で、それに合わせてみんなも歌う。これら以外にも飴ちゃんのおすそ分けは言うに及ばず、日焼け止めクリームの差し入れ、虫よけスプレーの貸し借り、国会前のそこここで、ありとあらゆる日常がシュプレヒコールのただ中で繰り広げられていたのだった。
『鴉よ、』で描かれる婆あ達の行動は作家が創作したファンタジーなどではなく、正しく「リアル」だったのだと思い知った。

有吉朝子
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