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劇団劇作家ブログ
現在、劇団劇作家に参加している劇作家がお送りする日常のあれこれ
鉛筆の枕詞
2015年12月25日 (金) 22:21 | 編集
昨夜、面白い夢を見た。

夢の中で、私はどこかの演劇養成所を訪れている。若い生徒たちが楽しそうに訓練していて「明るくて雰囲気のいい養成所だなぁ」と見ていると、最近、生徒たちの間で流行っているゲーム感覚の訓練があるという。「ぼくやりまーす!」と青いジャージの、ちょっと武闘派系の男子がやりはじめたのが、ボルダリングのように壁に短い鉄棒が並んでいて、その鉄棒につかまったり足をかけたりして登るゲームだった。ただしゴールは頂上ではなく、スタートと同時に赤く光る鉄棒だ。そこを目指して最短距離を考えながら鉄棒を渡っていくのだが、途中になぜか突然、壁からランダムに本棚が現れる。それが現れると、片手で鉄棒をつかんだままで本棚から戯曲を一冊取り出し、開いたページを1ページ朗読しなければならない。漢字が読めなかったり噛んだりしたら鉄棒を何本か戻らなければならないうえに、ゴールの鉄棒が赤く点滅して1分後にはもっと遠い場所に変わってしまう。
「ポイントはあそこで坪内逍遥訳のシェイクスピアを取らないことなんすけど、なぜかいっつも一番手が届きやすいところにあるんすよねぇ」とため息交じりに話す生徒に、講師らしい年配の女性が「でもそのおかげでだいぶ古典も読めるようになってるでしょ」と優しそうに微笑む。私は心の中で「この先生が置いているんだな」とその愛に密かに頭が下がる。青ジャージの男子はまんまと坪内訳の『マクベス』を手にし、「勃発」(明らかに清水邦夫さんの『楽屋』の影響です(笑))が読めずに鉄棒3つ分の後退。ところが、赤い鉄棒が点滅を始めたと思った瞬間、青ジャージ男子は突然、本棚の縦の部分に両手をかけ、足で鉄棒を蹴って反動をつけると本棚を大きく飛び越えて一気に赤い鉄棒をつかむという大技、「フライングステージ」(関根さんすみません、ホントになぜかそういう名前の技だったんです)を決め、見事にゴールする!
どうやらこのゲームは講師の意図とは違う方向でも若い俳優たちを鍛えているようだ。
一瞬の大技による大逆転というドラマに稽古場がおおいに盛り上がり、連発される「すげぇ」と拍手とハイタッチの渦の中、ふと見ると、ひとりだけ離れた机で熱心に何か書いている女子がいる。薄いクリーム色のジャージを着ていて、肩までのストレートのセミロングの髪がきれいだけれどなんとなく目立たない感じの女子だ。「台本を書いているの?」と声をかけると「あ、はいいえ…」とあいまいな返事で赤くなるのでなんだか可愛くなってしまって「劇作家志望なの?」と尋ねると、「いえあの…、入った時には目指していたんですけど、最近、脚本よりも、その言葉を生み出す鉛筆の方に興味が出てきてしまって…」というので私は思わず、「え、じゃあ、鉛筆職人になりたいの?」と聞く。その時の私はなぜか嬉しい興奮をしていたように思う。彼女は「いえ、私なんてぜんぜん…、まだ言葉もそんなにたくさん蓄積できてないし…」と両手を振るので私は「でも鉛筆、好きなんでしょう? 本は?」と続けて聞くと彼女は大きく二度頷いた。「そっか、そんなに好きなんだ。いいねぇ。本好きだったら言葉はこれからいくらだって蓄積していけるよ。素敵な言葉のいっぱい詰まった、いい鉛筆を作る職人になってね。」と言うと、彼女は「はい…!」と頷き、それから「あの、鉛筆の枕詞って知ってますか?」と目を輝かせて聞いてきた。これは質問ではない。きっと最近覚えたばかりで、嬉しくて誰かに言いたかったという顔だ。私は本当に知らなかったので、「えー、知らない。教えて! あ、でもなんか、「黒」って言葉は入っていそう!」と言うと、彼女は嬉しそうに「正解です! 黒、入ってます!」と言い…、

そこで目が覚めてしまった。

「そこ、聞いてから目ぇ、覚めろよ!」と起きてから自分で自分にツッコミを入れた。続きが聞きたくてもう一度寝ようとも思ったのだが、夢のコントロールも現実の朝のスケジュールもそうそう思うようにはいかなかった。

それでも一日、「黒」という言葉の入った「鉛筆の枕詞」を考えて、ちょっと幸せな一日を過ごすことができた。

それにしても、「鉛筆職人」、いいなぁ…。起きてる時には絶対に出てこない発想だ。劇作家はもっと寝ないといかんなぁ…。

篠原久美子
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