2017年10月31日 (火) 07:51 | 編集
久しぶりに投稿します。
去年、国立劇場が五十周年を迎えて十月から今年の三月まで数々の記念公演を開催しました。全てのプログラムを見ることは出来ませんでしたが、それでもかなり多くの公演を見ることが出来ました。そこで、その記念公演を中心にして、去年の十月から今月に至るまでの約一年に見た舞台の中から印象に残った作品を列挙して箇条書き的にコメントしてみようかと思います。(そんな趣旨に従って、「記念公演」と「その他」「別項」に分けて上演順にコメントすることにします。)
【国立劇場五十周年記念公演】
○歌舞伎『仮名手本忠臣蔵』(10月~12月/3ヶ月に分けての全段通し上演)
記念公演の目玉企画として、普段はあまり上演されることのない場面も含めて可能な限り全段を通し上演したもので、そういう意味でも価値ある公演だった。珍しい場面も、それなりに面白かったが、全段の中では役者陣の充実度も含め11月の《五・六・七段目》が一番よかった。
○文楽『仮名手本忠臣蔵』(12月/昼夜通し)
ベテランの引退が続き、技芸員の少ない現状の中で「通し」が可能なのかと見る前には心配だったが、中堅・若手の頑張りで見応えのある舞台になった。細かいことはさておき、休憩を除いても昼夜通して十時間近く芝居を見続けて飽きなかったのだから、それだけでも凄い。
○淡路人形芝居『賤ヶ嶽七本槍』(1月)
文楽以外で現在も上演が続いている数少ない民俗芸能の浄瑠璃系人形芝居を東京で観劇できたのは有難かった。
○琉球芸能公演『醜童/谷茶前/執心鐘入/他』(3月)
眼目の組踊『執心鐘入』だけでなく、滑稽味のある舞踊など珍しい演目を体験できたので、勉強になった。
○歌舞伎『伊賀越道中双六』(3月)
上演頻度の少ない《岡崎の段》を中心にした「半通し」で、二年前の再演だったが、前回よりも細部が練られており、充実した舞台だった。
【その他の公演】
○歌舞伎『熊谷陣屋(一谷嫩軍記)』(10月/歌舞伎座)
八代目芝翫の襲名披露公演で、「芝翫型」でこの演目を初体験したが、とても面白く見た。芝翫の熊谷は、要所要所のキマリなどを丁寧に演じており、役に対する気合いも感じて好演。吉右衛門の義経は、品がある上で「由縁の人もありつらん~」などの情も深くてよかった。歌六の弥陀六は、義経に頼まれて「ふふ、面白い」と不敵に笑って弥陀六に戻るところなども素敵で「上出来」だった。終盤、《ノリ地》になっての三人のバランスもよく、全体として充実した舞台だったと思う。
○歌舞伎『渡海屋・大物浦(義経千本桜)』(3月/歌舞伎座)
仁左衛門の知盛は初めて見たが、なかなか良かった。銀平と知盛の世話から時代への変化もはっきりしていたし、入水前の場面では歴史に翻弄された武士の怒りと悲哀が良く伝わってきた。時蔵との相性も良かったので、全体としていい舞台だった。
○歌舞伎『弁慶上使』(6月/歌舞伎座)
吉右衛門の弁慶も、又五郎の太郎も良かったが、雀右衛門のおわさがとても良かった。一人の女として恋い慕う気持ちや、惚れた男の前で照れる様子、そして娘の死を悲しむ気持ちが、「歌舞伎の時代物」という演技の枠からはみ出さずに表現され、しかも見ている方に伝わってきた。
○文楽『玉藻前曦袂』(9月/国立劇場小劇場)
文楽を見に行くと、つい義太夫や三味線の方に神経が集中してしまうことが多いのだが、この公演では九尾の狐を操って大奮闘の勘十郎を始め人形を見ることにも同等比率で集中できたので、単純に楽しかった。
○能『烏帽子折』(9月/国立能楽堂)
この能楽堂でも開場以来初めてという珍しい出し物―――。シテ方が前場と後場で違う人物を演じ、大勢の立衆が出て子方が活躍するなど極めて特徴的な演目で、バラエティに富んでおり、最後まで飽きることなく面白く見た。
【別項として】
○シス・カンパニー『エノケソ一代記』(11月/世田谷パブリックシアター)
歌舞伎役者の猿之助と久しぶりに役者として出た三谷幸喜氏の競演で、楽しかった。
○新作歌舞伎『夢幻恋双紙――赤目の転生』(4月/赤坂ACTシアター)
現代劇の蓬莱竜太氏による書き下ろし。役者陣が「歌舞伎」という枠にハマらず遊んでいる姿は、見ていて楽しくなった。
○野田歌舞伎『野田版・桜の森の満開の下』(8月/歌舞伎座)
野田氏の歌舞伎を舞台で見たのは初めてだったが、「新作歌舞伎」というより「野田版」なのだなと納得した。ハンパに古典テイストを残した新作歌舞伎より潔く感じた。
○新作歌舞伎『マハーバーラタ戦記』(10月/歌舞伎座)
これまた、現代劇作家と演出家のコンビである。そして、インドのお話である。しかし、不思議に「歌舞伎」になっていた。うまく言えないが、なんか驚いた。
○スーパー歌舞伎Ⅱ『ワンピース』(10月/新橋演舞場)
主演の猿之助が怪我で休演したため、代役による舞台を観劇。見事なチームワークで、まったく原作のことを知らないで見たが楽しめた。しかし、これはもはや「歌舞伎」ではない。だから「スーパー歌舞伎」しかも「Ⅱ(セカンド)」なんだと納得。
校倉 元
去年、国立劇場が五十周年を迎えて十月から今年の三月まで数々の記念公演を開催しました。全てのプログラムを見ることは出来ませんでしたが、それでもかなり多くの公演を見ることが出来ました。そこで、その記念公演を中心にして、去年の十月から今月に至るまでの約一年に見た舞台の中から印象に残った作品を列挙して箇条書き的にコメントしてみようかと思います。(そんな趣旨に従って、「記念公演」と「その他」「別項」に分けて上演順にコメントすることにします。)
【国立劇場五十周年記念公演】
○歌舞伎『仮名手本忠臣蔵』(10月~12月/3ヶ月に分けての全段通し上演)
記念公演の目玉企画として、普段はあまり上演されることのない場面も含めて可能な限り全段を通し上演したもので、そういう意味でも価値ある公演だった。珍しい場面も、それなりに面白かったが、全段の中では役者陣の充実度も含め11月の《五・六・七段目》が一番よかった。
○文楽『仮名手本忠臣蔵』(12月/昼夜通し)
ベテランの引退が続き、技芸員の少ない現状の中で「通し」が可能なのかと見る前には心配だったが、中堅・若手の頑張りで見応えのある舞台になった。細かいことはさておき、休憩を除いても昼夜通して十時間近く芝居を見続けて飽きなかったのだから、それだけでも凄い。
○淡路人形芝居『賤ヶ嶽七本槍』(1月)
文楽以外で現在も上演が続いている数少ない民俗芸能の浄瑠璃系人形芝居を東京で観劇できたのは有難かった。
○琉球芸能公演『醜童/谷茶前/執心鐘入/他』(3月)
眼目の組踊『執心鐘入』だけでなく、滑稽味のある舞踊など珍しい演目を体験できたので、勉強になった。
○歌舞伎『伊賀越道中双六』(3月)
上演頻度の少ない《岡崎の段》を中心にした「半通し」で、二年前の再演だったが、前回よりも細部が練られており、充実した舞台だった。
【その他の公演】
○歌舞伎『熊谷陣屋(一谷嫩軍記)』(10月/歌舞伎座)
八代目芝翫の襲名披露公演で、「芝翫型」でこの演目を初体験したが、とても面白く見た。芝翫の熊谷は、要所要所のキマリなどを丁寧に演じており、役に対する気合いも感じて好演。吉右衛門の義経は、品がある上で「由縁の人もありつらん~」などの情も深くてよかった。歌六の弥陀六は、義経に頼まれて「ふふ、面白い」と不敵に笑って弥陀六に戻るところなども素敵で「上出来」だった。終盤、《ノリ地》になっての三人のバランスもよく、全体として充実した舞台だったと思う。
○歌舞伎『渡海屋・大物浦(義経千本桜)』(3月/歌舞伎座)
仁左衛門の知盛は初めて見たが、なかなか良かった。銀平と知盛の世話から時代への変化もはっきりしていたし、入水前の場面では歴史に翻弄された武士の怒りと悲哀が良く伝わってきた。時蔵との相性も良かったので、全体としていい舞台だった。
○歌舞伎『弁慶上使』(6月/歌舞伎座)
吉右衛門の弁慶も、又五郎の太郎も良かったが、雀右衛門のおわさがとても良かった。一人の女として恋い慕う気持ちや、惚れた男の前で照れる様子、そして娘の死を悲しむ気持ちが、「歌舞伎の時代物」という演技の枠からはみ出さずに表現され、しかも見ている方に伝わってきた。
○文楽『玉藻前曦袂』(9月/国立劇場小劇場)
文楽を見に行くと、つい義太夫や三味線の方に神経が集中してしまうことが多いのだが、この公演では九尾の狐を操って大奮闘の勘十郎を始め人形を見ることにも同等比率で集中できたので、単純に楽しかった。
○能『烏帽子折』(9月/国立能楽堂)
この能楽堂でも開場以来初めてという珍しい出し物―――。シテ方が前場と後場で違う人物を演じ、大勢の立衆が出て子方が活躍するなど極めて特徴的な演目で、バラエティに富んでおり、最後まで飽きることなく面白く見た。
【別項として】
○シス・カンパニー『エノケソ一代記』(11月/世田谷パブリックシアター)
歌舞伎役者の猿之助と久しぶりに役者として出た三谷幸喜氏の競演で、楽しかった。
○新作歌舞伎『夢幻恋双紙――赤目の転生』(4月/赤坂ACTシアター)
現代劇の蓬莱竜太氏による書き下ろし。役者陣が「歌舞伎」という枠にハマらず遊んでいる姿は、見ていて楽しくなった。
○野田歌舞伎『野田版・桜の森の満開の下』(8月/歌舞伎座)
野田氏の歌舞伎を舞台で見たのは初めてだったが、「新作歌舞伎」というより「野田版」なのだなと納得した。ハンパに古典テイストを残した新作歌舞伎より潔く感じた。
○新作歌舞伎『マハーバーラタ戦記』(10月/歌舞伎座)
これまた、現代劇作家と演出家のコンビである。そして、インドのお話である。しかし、不思議に「歌舞伎」になっていた。うまく言えないが、なんか驚いた。
○スーパー歌舞伎Ⅱ『ワンピース』(10月/新橋演舞場)
主演の猿之助が怪我で休演したため、代役による舞台を観劇。見事なチームワークで、まったく原作のことを知らないで見たが楽しめた。しかし、これはもはや「歌舞伎」ではない。だから「スーパー歌舞伎」しかも「Ⅱ(セカンド)」なんだと納得。
校倉 元
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